皆さんは筋トレにおけるセット法の1つである、ドロップセットと言うものをご存じでしょうか?
ドロップセットのやり方を簡単に説明すると、
これをインターバルを極力短くして3~4回繰り返すというのが、ドロップセットのやり方です。
初心者~上級者まで、多くのトレーニーが取り入れている人気の方法ではあるのですが、と同時に、
「ドロップセットって効果ないよ」
「ドロップセットなんてやるだけ無駄」
このような意見が見受けられるのもまた事実です。
結論から言うと、ドロップセットは筋肥大にも”効果”はありますが”効率”が悪いセット法になります。
理由は主に3つ。
- 物理的刺激と化学的刺激のどちらも中途半端になってしまうから
- 筋持久力の方が発達してしまうから
- 筋力のUPには繋がらないから
下記より、詳しく説明していきます。
ドロップセットのやり方
まずは改めて、ドロップセットのやり方について説明します。
冒頭でも簡単に説明しましたが、基本的には重量を落としながら短いインターバルで繰り返すというのが、ドロップセットのやり方です。
それだけだといまいちイメージがつかめないかもしれないので、もう少し詳しく解説しましょう。
- 1RM(ギリギリ一回だけ行える重量)の90%の重量で限界まで行う
- インターバル(最大でも20秒程度)
- 1RMの70%の重量で限界まで行う
- インターバル(最大でも20秒程度)
- 1RMの50%の重量で限界まで行う
- 終了
ポイントは、インターバルを短く取ることと、1RMの30%以下の重量には落とさないことです。
インターバルを40秒以上取ると、それはもうドロップセットではありません。
また、1RMの30%以下の重量では速筋ではなく遅筋が使われてしまうので、筋肥大の効果は一気に低下してしまいます。
この2点に特に気を付けましょう。
- インターバルを長くしない(20秒以内に!)
- 重量を落とし過ぎない(1RMの30%以下はNG)
ドロップセットに関する論文
まずは過去の研究結果の中からドロップセットに関する論文を2つほどピックアップして、ドロップセットに効果があるのかどうかを見て行きます。
ドロップセットは”効果的だ”という論文
まずは2018年に行われたこちらの論文からです。
この研究においては被験者は8人ずつの2グループに分けられ、それぞれのグループにおいて
- ストレートセット(重量を変えない)でのケーブルプレスダウン
- ドロップセットでのケーブルプレスダウン
といったトレーニング内容で、6週間の間トレーニングを継続してもらいました。
最終的にこの研究では、
- ストレートセット群:5.1%の筋肥大
- ドロップセット群:10.0%の筋肥大
といった結果を得られました。
このことからドロップセットは筋肥大に効果的であるという結論で、この論文は結ばれております。
ドロップセットは”効果的ではない”という論文
次にご紹介するのは2017年に行われたこちらの研究です。
この研究では、32人の被験者を、
- ストレートセット
- ドロップセット
- ピラミッドセット(徐々に重量は上げて、回数を減らす方法)
このような3パターンのセット方法を行う群に分けて、12週間レッグプレスでのトレーニングを継続してもらいました。
結果としては、
- ストレートセット群:7.6%の筋肥大
- ドロップセット群:7.8%の筋肥大
- ピラミッドセット群:7.5%の筋肥大
といった内容が得られ、ストレートセットとドロップセットには、筋肥大効果においてはほとんど差はないと結論付けられております。
2つの論文から分かること
なぜ同じドロップセットでのトレーニング効果において、このような違いが生まれたのでしょうか。
考えられる理由としては2点あります。
- トレーニングの期間(6週間と8週間)
- トレーニングの種類(ケーブルプレスダウンとレッグプレス)
1つは”効果がある”と結論付けた研究では、期間も短く被験者数も少なかった点です。
このことからたまたまこの研究ではドロップセットの方が効果が高かったという可能性も否めません。
また、行う種目およびターゲットとなる部位が、
- 単関節種目と多関節種目
- 上腕三頭筋と大腿四頭筋
と異なりますので、単関節種目の小さい筋肉では、ドロップセットの方が効果的である可能性もあるでしょう。
「結局ドロップセットはいいの?悪いの?」
そんな声が聞こえてきそうな結果ですね。
ですが、筋トレによって筋肉が肥大する仕組みについて考えた時に、ドロップセットは筋肥大にとってあまり効率的ではない理由というのが見えてきます。
ドロップセットの効率が悪い理由
では何故ドロップセットの効率が悪いのか、その理由について見て行きましょう。
ドロップセットの物理的刺激
筋トレにより発生する刺激には、物理的刺激と化学的刺激の2種類が存在します。
それぞれどのような刺激かというと、
- 物理的刺激:筋肉に直接かかる負荷による刺激
- 化学的刺激:筋トレを行うことによる筋肉内の環境悪化による刺激
といった具合です。
筋トレによって筋肉が大きくなる仕組みには、この2つの刺激が主に関わっています。
では、ドロップセットによる物理的刺激について考えてみましょう。
最大の難点は、モーターユニット(運動単位)動員率の低下です。
モーターユニットとはなんなのでしょうか。
人間の(随意)筋肉は脳からの指令を受けて収縮しているので、当然ですが筋繊維は必ず神経と繋がっています。
ただし、1個の筋繊維が1本の神経に繋がっているかというとそうではなく、神経細胞から延ばされた神経が、複数の筋繊維と結合して支配しているという状態なのです。
つまりモーターユニットとは「1つの運動神経が支配する筋繊維の集団」のことを指します。
そしてこのモーターユニットには、力を発揮するかしないかの2択しかありません。
つまり普段の半分の力しか出さないときは、モーターユニットが50%の力を発揮しているのではなく、全体の50%の数のモーターユニットしか動いていないのです。
ドロップセットの後半においては、最初の段階に比べると筋肉も疲労しているので、動員されるモーターユニットの数は減少していきます。
そうなると当然、物理的刺激が入る筋肉の数も減少することになるのです。
つまりドロップセットの物理的刺激は、ストレートセットの刺激に比べると小さくなる可能性が高いのです。
ドロップセットの化学的刺激
次は、化学的刺激についてみていきます。
化学的刺激とは具体的にはどのようなものを指すのかというと、例えば筋肉がエネルギー(ATP)を消費すると、乳酸が発生してそれが筋肉内に溜まっていきます。
乳酸の発生がピークに達すると、筋肉は動かなくなってしまうのです。
そして筋肉が収縮すると血管が狭まり酸素濃度も低下しますし、インターバル中は乳酸を取り除くために血流が上昇し、筋細胞内に水が引き込まれ、パンプアップという現象も引き起こされます。
なのでパンプアップもまた、化学的刺激の1つと言えます。
>>パンプアップは筋肥大に効果アリ!パンプアップの方法についても解説
とまあこのような筋肉内の環境の変化によって、筋肉にストレスを与えて成長(肥大)を促す、これが化学的刺激の狙いになります。
では、ドロップセットの化学的刺激について考えてみましょう。
上記のパンプアップの記事でも書いておりますが、基本的に化学的刺激を狙う場合は「低重量×高回数」かつ、コントラクト種目やストレッチ種目のような、負荷の逃げにくい種目の方が狙いやすいです。
そしてドロップセットでインターバルを短くする理由は、化学的刺激を狙っているからなのです。
が、これも物理的刺激と同じく、ドロップセットの場合は化学的刺激が中途半端になる可能性が高いです。
なぜなら重量を落として低重量でも限界まで追い込めば、確かに化学的刺激は狙えますが、すでに高重量によっても筋肉が疲弊しているので、狙い通りの刺激を得るまで追い込めない(回数をこなせない)可能性が高くなってしまうからです。
物理的刺激か化学的刺激のどちらかに絞る
二兎を追う者は一兎をも得ず。
ドロップセットは物理的刺激と化学的刺激の美味しいとこ取りが出来るセット法のようにも感じられますが、現実はどちらもが中途半端になる可能性が高いのです。
確かに、物理的刺激と化学的刺激を使い分けることはトレーニングに筋肉を慣れさせないという意味では非常に重要です。
しかしそれはわざわざ1つのセット内で行わなくとも、例えば同じ日のトレーニング内において刺激を変えたり、はたまた週ごとにトレーニング内容を変えたりすることによっても十分刺激は変えられます。
そういう意味でドロップセットは、効率の悪いセット法であると考えられます。
ドロップセット以外のおすすめなセット方法
では、物理的刺激と化学的刺激を狙うトレーニング方法には、他にどのようなやり方があるのでしょうか。
1つは先ほども説明した通り、完全に種目から狙う刺激を分けて考えるやり方ですね。
そしてさらにもう1つの方法が、レストポーズ法になります。
レストポーズ法とは
まずはやり方を簡単に説明します。
- 5回出来るかどうかの重量を選び、1回目は3回でストップ
- 一呼吸整えて、さらに1~2回
- 一呼吸整えて、さらに1~2回
- 一呼吸整えて、ラスト1回
これがレストポーズ法のやり方です。
ご覧になってもらって分かる通り、レストポーズ法においては重量は変わらないので、当然モーターユニットの数も変わりません。
なおかつ、インターバルをほぼ0の状態で続けざまに行うので、十分な化学的刺激も狙う事が出来ます。
加えてレストポーズ法を行うと、重たい重量でも回数をこなすことが可能となりますので、週当たりのトレーニングボリュームを稼ぎやすいという研究結果も報告されています。
トレーニングボリュームとは「重量×回数×セット数」で表される数値のことを指します。
現在のところトレーニングによる筋肥大の効果は、このトレーニングボリュームが指標となると考えられています。
さいごに
以上がドロップセットがあまり効果的なセット法ではない理由についての解説でした。
確かにドロップセットは効率的ではありませんが、全くの無駄ということは決してありません。
トレーニングを行えば間違いなく一定の成果は得られます。
なので体感として「ドロップセットは自分に合っている!」という感覚がある人は、今までどり続けるべきです。
筋肥大効果にも個人差がありますし、実際に効果があったという研究結果も報告されていますので。
大事なのは、経験と理論のバランス感覚ですね。