「クエン酸が筋トレに効果があるって聞いたんだけど本当かな?」
そんな疑問に今回はお答えしていきます。
実はクエン酸のもっともポピュラーな効果とされている疲労回復効果は嘘なのです。
ただし、使いようによっては筋トレやその他の運動のパフォーマンスを向上させる効果があることは間違いありません。
主なクエン酸の効果は以下の3点です。
- 有酸素運動時のエネルギーとなってくれる
- 乳酸の分解を早め、体内のph値を戻してくれる
- グリコーゲンの回復を早めてくれる
その他にもクエン酸のダイエット効果についてや、過剰摂取した際はどうなるのかなども、詳しく解説していきます。
なぜ筋トレにはクエン酸が効果的なのか
まずは、筋トレする際にクエン酸を摂取することによるメリットについて解説していきます。
最も注目すべきはグリコーゲンの回復を早めてくれる効果です。
筋肉を動かす(収縮させる)際には、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーが使われます。
このATPは主に以下の3つの経路によって生成されます。
- 解糖系:糖質(グルコース)を分解してATPを生成する
- ATP-CP系:クレアチンからATPを生成する
- 有酸素系:好気的(酸素がある)環境下において電子伝達系でATPを生成する
基本的に筋トレのような短期間のほぼ無酸素状態での運動において使われるのは、主に解糖系とATP-CP系の2つです。
ただし、ATP-CP系は約10秒程度しかATPの生成が持続せず、それに対して解糖系は約40秒ほどATPの生成が持続するので、主に使われる経路は解糖系の方になります。
そしてこの解糖系でATPを生成するための材料であるグルコースは、筋肉内に貯蔵されてあるグリコーゲンを分解することで生成されるのです。
運動後にクエン酸を摂取することで、運動によって枯渇したグリコーゲンの回復が早まることは、1983年に日本で行われた実験においても確認されています。
なのでトレーニング後、もしくはトレーニング中に糖質と一緒にクエン酸を摂取することで、エネルギーの回復速度を早めてくれる効果があるのは間違いありません。
クエン酸と疲労回復効果の嘘
ただし、よく言われるクエン酸を摂取することで疲労の回復を早めることが出来る効果というのは、現在のところほぼ否定されている効果なのです。
国立健康・栄養研究所の「『健康食品』の安全性・有効性情報」というサイトのクエン酸の項でも、クエン酸の疲労回復効果を疑問視するような記述が存在しています。
国立健康・栄養研究所の「『健康食品』の安全性・有効性情報」(クエン酸について)
ではなぜ「クエン酸=疲労回復効果がある」と誤解されてきたのでしょうか。
それには、乳酸に関する誤解が深く関係しているのです。
乳酸=疲労物質という誤解
ATPを生成する解糖系の経路において、最終的に生成されるのはATPだけではありません。
実は乳酸とピルビン酸という物質も、解糖系の最終過程では生成されるのです。
皆さんは乳酸と聞くとどんなイメージを持っていますか?
多くの人は「乳酸=疲労物質」であったり「乳酸が筋肉痛の原因」であると勘違いしているのではないでしょうか。
現在のところ、乳酸は疲労物質などではなく、むしろ緊急の際に体内で使われるエネルギー源であるという風に結論付けられております。
乳酸についてもっと詳しく知りたい方は筋トレと乳酸の関係性を正しく理解してますか?【筋肉痛の原因ではありません】という記事をご覧ください。
さて、解糖系において乳酸が生成されるということは、筋トレをしたあとは運動前より多くの乳酸が体内には存在することになります。
その際にクエン酸を摂取すると、肝臓における乳酸の分解を促進する効果があることが、2001年に行われたこちらの研究でも報告されています。
つまり話を整理すると、
- 昔は乳酸が疲労物質だと考えられていた
- クエン酸は乳酸の分解を促進する効果があることが分かっていた
- 「クエン酸が乳酸を分解する」=「疲労を素早く取り除く」という勘違い
という流れで、この誤解は広まったわけです。
クエン酸は有酸素運動時のエネルギーになる
もう1つ補足的に、クエン酸と乳酸の関係についてお話しておきましょう。
クエン酸の効果の1つに「有酸素運動時のエネルギーとなる」というものがあると冒頭では説明しました。
実はこれには、ATPが生成される経路の1つである、有酸素系のはたらきが関わってくるのです。
ここからは少し難しい話になるので、興味のない方は読み飛ばしてくださいね。
有酸素系はTCA回路(クエン酸回路)と電子伝達による酸化的リン酸化によってATPを生成する経路になります。
TCA回路は別名クエン酸回路と言われている通り、サイクルの途中過程でクエン酸を生成する回路になります。
クエン酸回路は通常、解糖系により発生したピルビン酸と、脂肪酸がβ酸化する事によって生成されるアセチルCoAを材料として回り始めます。
クエン酸回路の重要な役割として、補酵素のNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を生成する事にあります。
NADHはミトコンドリアにおいて電子伝達系の中で使われ、酸化的リン酸化を通してATPを生成するのです。
基本的にATPは筋肉に限らず、人間が体を動かす際に必要となる極めて重要なエネルギー源であり、そのATPは主に、このTCA回路と酸化的リン酸化による有酸素系において生成されるのです。
ここで話を有酸素運動に戻しますと、有酸素運動時も有酸素系が働いて、体はエネルギーを作り出しています。
しかし有酸素系がはたらくには、解糖系によってピルビン酸が存在していることが条件となるのです。
だからマラソンやロードレースの際にも、糖質(グルコース)の補給が重要視されているわけなのですね。
しかしその時、TCA回路を回す際に生成されるクエン酸を、体外から摂取していたらどうなるのでしょうか?
結論から言うと、解糖系によるピルビン酸を必要とせず、TCA回路が回ってくれるようになります。
TCA回路で生成される中間物をはじめから使用した方が、補酵素などを使わずに済むので効率が良いですからね。
なのでクエン酸を有酸素運動前に摂取することで、運動後の血中乳酸濃度を抑えることが出来たという研究もいくつか散見されます。
これは解糖系によるグルコースの分解が抑制されたことが起因となっているのでしょう。
なので有酸素運動を主に行う人は、運動前・運動中・運動後と、糖質と一緒にクエン酸を摂取することで、パフォーマンスの向上が見込めます。
筋トレする人のクエン酸摂取量について
さて、ではクエン酸はどのくらいの量を摂取すれば良いのでしょうか。
多くのクエン酸にまつわる研究ですと、体重1kgあたり0.4g程度を摂取するのが一般的です。
ただし、クエン酸は酸味が強いので、大量の水と一緒に摂取するようにしましょう。
一番オススメする飲み方は、下記の分量で混ぜて作り、それをトレーニングをしながら飲み干すという摂取方法です。
・EAA:20g
・マルトデキストリン:60g
・クエン酸:25g
・水:1.5ℓ~2ℓ
※体重60kgを想定
EAAとは必須アミノ酸のことであり、筋トレ中に摂取することで筋分解の抑制と、筋合成を促進する効果が期待出来ます。
詳しくはやみくもにタンパク質を摂るだけでは意味がない!?必須アミノ酸について解説という記事とマイプロテインのEAAの飲み方について解説します【その他メーカーもOK】という記事でも解説してます。
そしてマルトデキストリンは吸収されやすい糖質の1つです。
よく粉飴という名称で販売されてます。
これらをクエン酸と一緒に水に混ぜて摂取することで、筋トレの効果を最大化することが出来るので、ぜひ試してみて下さい。
ちなみにクエン酸は大量に摂取したとしても必要ない量はすべて体外に排出されるので、過剰摂取の心配はありません。
元々体内でも生成されるものですからね。
クエン酸とダイエット
たまにクエン酸がダイエットに効果的だと書かれてあるものを見受けますが、それは嘘です。
TCA回路は糖を分解して生成されるピルビン酸と、脂肪を分解して生成されるアセチルCoAを材料として回ります。
ただしそこに外部からクエン酸を摂取することで、糖と脂肪の分解を必要とせずに体はエネルギーを生成してしまいます。
これがダイエットにとってはあまりよろしくないことは、説明するまでもないですね。
ちなみにケトジェニックダイエット初期で、素早くケトーシスに入ろうとする際にクエン酸を摂取してしまうと、せっかく糖質が枯渇しているのにクエン酸回路が回ってしまうので、ケトーシスへの移行を遅らせてしまいますので特に注意が必要です。
>>正しいケトジェニックダイエットは筋トレの効果を落としません【ポイントを解説】
>>【ケトジェニック】爆速でケトーシスに入る方法【最短1日】
さいごに
以上が、筋トレする人が知っておきたいクエン酸に関する解説でした。
ちなみにクエン酸の隠された効果として、尿路結石を防ぐというものがあります。
尿路結石はシュウ酸とカルシウムが結合して生成されるのですが、シュウ酸は肉や魚などに豊富に含まれています。
筋トレーニーは肉類を多く摂取する人も多いので、注意したい病気の1つです。
そんなこわーい尿路結石を防ぐ効果も期待できるので、ぜひワークアウトドリンクにクエン酸を取り入れてみて下さい。